シネ・フロント4月号、巻頭特集は製薬会社の陰謀を告発したジョン・ル・カレ原作「ナイロビの蜂」。フェルナンド・メイレレス監督が、自作について語っている。
ほか、中国版「ニュー・シネマ・パラダイス」のシャオ・チアン監督『玲玲(リンリン)の電影日記』、パレスチナ人女性ガーダのドキュメント映画の古居みずえ監督『ガーダ パレスチナの詩』、使用済み核燃料再処理工場周辺の人々の生活を記録した鎌仲ひとみ監督『六ヶ所村ラプソディー』と、今月は3人の女性監督作品が特集されている。
『グッドナイト&グッドラック』のジョージ・クルーニー監督、『ブロークン・フラワーズ』のジム・ジャームッシュ監督のインタビューも。
シネマトーク「男たちの大和」について塩見正道氏は、「これは反戦映画ではない」「戦争への拒否感、嫌悪感を確実に麻痺させる映画]と書いている。好意的論評の多い中、本質をついた批評だと思う。
4/22東京・下高井戸シネマのドキュメンタリー映画特集(ドキュメンタリーセレクション/山形・TOKYO・サンパウロ)で、『三池 終わらない炭鉱(やま)の物語』を観た。福岡県大牟田市が企画した三池炭鉱の歴史を見つめ直す記録映画。三池の囚人労働・強制連行・労働争議・炭鉱事故・労働災害といった問題点を隠すことなく、真摯に向き合あったという点は、行政の製作した映像作品では画期的といえるだろう。三池の歴史が「負の遺産」として消し去られようとしていることに、ショックと怒りを感じたという熊谷博子監督の労作である。舞台挨拶で熊谷監督の話しを聞くこともできた。
(舞台挨拶から)
真剣に必死で生きてきた歴史を残したいと思った。大牟田市の行政の方があちこち駆け回って予算を取るのに3年間、そして撮影に2年間かかった。
初めから作品をつくろうと思ったのではなく、まず町の記録を残そうとしたことが良かった。あらゆる人の話を丁寧に聞こうと思った。100人以上に話を聞き、30以上の炭鉱施設を廻った。
遺言のような作品。いままでしてこなかったような話しを、誠実にカメラの前で語ってくれた。映画で話してくれた方が、7人亡くなっている。
過去のノスタルジーでつくったわけでは全くなく、きちっと歴史と向き合うことの意味、それが過去の歴史ではなく、今に生きている歴史なんだということを伝えたかった。
良かったのは、作ってくれて「ありがとう」といろんな方から言ってもらえた。珍しいことで、自分たちの映画だと考えてもらえたことがうれしかった。
21時からのレイトショーにもかかわらず、劇場は満席の盛況だった。
「放送レポート」5月号、200号記念企画ということで、小中学校の教師57人に、テレビについてのアンケートを実施している(好きな番組・嫌いな番組、青少年に与える影響など)。好きな番組はNHK、嫌いな番組はバラエティ・ワイドショー、という教師がかなりを占めている。
その他、鎌田慧氏のメディア総研講座「災害現場を歩いて」の採録、NHKが放送記念日に放映した3時間の討論番組「徹底討論 テレビは誰のものか」を徹底分析、沖縄返還協定の「今 明かされる「沖縄密約」の真実」など。
当誌に20年にわたり「メディア・レポート」を連載していた茶本繁正氏が亡くなった。「侍」のような気骨あるジャーナリストだった。松田浩氏が、茶本氏の志を引継ぎ闘っていきたいとの追悼文を書いている(大手記者が変名で、メディア批判本を書いていたという逸話は興味深い。「デスク日記」の小和田進が原寿雄氏だというのは、ある程度知られていたが、「知られざる放送」を松田氏が書いていたとは知らなかった)。
シネ・フロント3月号、ベスト1『パッチギ!』の井筒和幸監督が、九条の会事務局長・小森陽一東大教授と対談をしている。
(小森氏)東大と京大で自主的試写会が開催され大盛況、「全都学生集会」的な様相だった。中学生までがベトナム戦争について語り合っていた、1968年に生きた人々の「言葉」と「感覚」が生き生きと描かれる。「暴力」も差別される側の「絶対に殺さない」厳密な描かれ方がされて感動した。「反北朝鮮」報道の中での上映は、勇気もあるし意味も大きい。今は議論がほとんどなされない思考停止状態で、『パッチギ!』はそういう日本社会への頭突き(パッチギ)だ。
(井筒氏)ある日名前を変えられたらどう思うか、この100年の歴史をもう一度考え直さなければアカン。『パッチギ!』では、日本国憲法を援用しながら、禁止歌「イムジン川」の放送を強行する。映画は、憲法の「自由」に守られた唯一の芸術。テレビはスポンサーが来ただけで、憲法を無視する。映画は自粛に対抗できる数少ないジャンルで、最後の砦にいるなという最後感がある。
アンソン、キョンジャの在日一家のその後を描くPART2、3も構想中とのこと。ちょっと乱暴なところもあるが、憲法を意識しながら、映画を作る井筒監督は貴重な存在である。
シネ・フロント3月号、読者投票のベストテンを発表。
◆日本映画 1)パッチギ! 2)ALWAYS三丁目の夕日 3)蝉しぐれ 4)いつか読書する日 5)カーテンコール 6)時代を撃て・多喜二 7)二人日和 8)メゾン・ド・ヒミコ 9)にがい涙の大地から 10)埋もれ木 次)映画日本国憲法
◆外国映画 1)エレニの旅 2)亀も空を飛ぶ 3)ヒトラー 最後の12日間 4)ミリオン・ダラー・ベイビー 5)大統領の理髪師 6)ある子供 7)海を飛ぶ夢 8)マラソン 9)マイ・ファーザー 10)やさしくキスをして 次)ヴェラ・ドレイク
●日本映画監督賞(井筒和幸)●脚本賞(羽原大介/井筒和幸)●男優賞(吉岡秀隆)●女優賞(田中裕子)
監督・脚本賞の井筒監督と小森陽一東大教授(九条の会事務局長)の特別対談、李鳳宇プロデューサーのインタビューで、1位の『パッチギ!』を振り返り、山田和夫氏の「映画人の社会的自己主張こそ!」で05年の映画界を総括している。